前編は「1.ディザスタ対策から生まれたインターネット」をお読みください。
「被災地は、さまざまなリソースが不足した環境にある」
ここで言う「リソース」には、多くの要素が含まれています。
人材、物資、ライフライン(電気、水道、ガス、電話など)が提供するサービス、さらには、時間や情報といった、ありとあらゆるものです。
被災支援の初期フェーズでは、一次災害の被災者をできる限り速やかに救出すること、いつ発生するかもしれない二次災害を阻止すること、この二つが重要になってきます。
ただ、被災直後は、ライフラインが破壊されていたり、機能不全に陥っていることが想定されます。本来なら救援のために、平常時より多くのリソースが必要なのに、普段あるものすら使えないという状況が、被災地での活動をより困難にするのです。
こうしたリソース不足に対して、情報技術の活用が有効となるケースが多数考えられます。
例えば、どのようなリソースが存在するかを把握して、それらをどこに投入・運用すべきか判断する際に、情報システムや通信技術が役立ちます。
また、被災地のリソース不足の解決には、物資の移動をともなわない外部からの情報支援も、大きな効果を発揮するはずです。もし、複数の情報チャネルを確保できれば、外部の知恵や力を被災者支援に活かせるからです。
現状では、こうした被災地に対する情報支援の環境は、十分に整っているとは言えませんが、IIJ技術研究所では、「インターネットを活用した被災環境支援」に関する研究を、さまざまな方面から進めています。

「インターネットは、もともと軍事技術として設計されたので、突発的な出来事にもひじょうに強いシステムである」
こんな“神話”が、災害とインターネットを結ぶコンテクストで語られることがあります。
例えば、「通信の継続性」という視点に限定すれば、インターネットはたいへん頑健なアーキテクチャですが、それをインターネットのシステム全体に敷衍して論じるのは、無理があります。
しかし、被災支援にインターネット技術を活用すべき根拠は数多くあります。そしてそのほとんどは、インターネットがすでに我々の生活の「基盤技術」になっていることに起因してい
ます。
例えば、
- 機器コスト、システムコストを抑えることができる
- 多くのソフトウェア資産やノウハウが蓄積されている
- 巨大なネットワークが運用されており、使える人も多い
こうした利点を挙げることができます。
インターネットと被災支援システムについて考える際、忘れてはならないのが、「普段使わないものを、いざというときに使えるはずがない」ということです。非常時システムを、そのときにしか使用しない想定でつくるのは、絶対に避けなければなりません。
日常生活においても、たまにしか使わないものは、いざ必要となったとき、何かが欠けていたり、上手く使えなかったり……という苦い経験をお持ちの方も多いと思います。
ましてや非常時には、普段ならできることもいつも通りにはいかない、と想定すべきです。
インターネット技術を用いた被災支援システムの利点は、ここにあると言えます。基盤技術として普及したインターネットを、被災支援システムとしてネットワークの一部に溶け込ませるように設計しておいたり、非常時に既存インターネットの一部として拡張可能なように準備しておくことで、平時に使っているシステムの延長線上に、非常時システムを位置づけることができるのです。

「点のシステムから面のシステムへ」この考え方も、被災支援のシステムを考えるときに重要です。
災害救助は、時間との戦いであると同時に、刻一刻と状況が変わるなかで進行します。こうした側面から、被災支援システムは、「同時に複数の地点を扱える」必要があります。
例えば、被災者を救出するミッションでは、できるだけ広い地域を、できるだけ迅速に探索しなければなりませんし、一度探索したからといってそれで救助が終わるわけでもありません。
つまり、被災地を支援するシステムは、特定の地点だけで展開される「点」のシステムではなく、複数地点で同時に展開され、相互に情報を交換できるような「面」のシステムとして構築されるべきなのです。
そして、支援活動を面的に展開するには、「高性能だが一台しかないような機材」よりも、「各機材の性能は限定されていても、多数の作業を同時並行で進められるシステム」の導入が不可欠です。
ともすれば、個々の機材の信頼性や性能ばかりに目が向きがちですが、そのような機材はどうしても高価になります。それとは逆に、性能はそこそこでも、安価であるがゆえに、その百倍、千倍といった規模で投入できる「高いスケーラビリティ」を備えた体勢こそが、次世代の被災地支援システムの有力な方向性であると言えるでしょう。

インターネット技術を用いて構成・運用される被災支援システムには、これまでの直接的な利点とは別の「間接的な利点」も考えられます。それは、既存のネットワークに接続することで、「遠くの人の力や情報処理能力を活用できる」点です。
災害時、いくら人的リソースが足りないと言っても、十分に訓練されていない人が、危険な
被災現場で働くことは避けなければなりません。
しかし今後、被災地と外の世界とを高いバンド幅で結ぶネットワークが実現し、運用されるようになれば、被災現場で必要なスキルを持った専門家の目や知恵を、即座に活用できるようになるでしょう。
例えば、倒壊した建物のなかで要救助者を発見するには、「危険な現場で自分の身を守りながら行動するスキル」と「混乱した環境下でも、的確に要救助者を発見するスキル」の両方を兼ね備えていることが肝心です。
仮にそのとき、被災現場の画像情報などを外部に送って、より多くの専門家の目で確認できれば、普通なら見逃していたかもしれない〝何か〟を発見できる可能性が向上するでしょう。
インターネットの活用は、このような新しい応用を生み出していく力を秘めているのです。
さらに、最近注目を集めているのが、「IRT(=Information and Robotics Technology : 情報技術+ロボット技術)」です。これは、インターネットの通信技術に、実際に移動でき、物を動かす力を持ったロボット技術を組み合わせることで、実空間指向の情報アプリケーションを実現するものです。
ネットワーク技術、情報技術、そしてロボット技術を組み合わせて、危険な場所で人命救助にあたらせたり、同時に多数のロボットを投入できる支援方法は、一刻も早い実用化が待たれるアプリケーションの一つで、実運用に向けた活発な研究開発が進められています。
もちろん、完全自律で動作するロボットは、未だ物語の世界にしか存在しません。ここで述べたロボットは、近傍の障害物回避など、自動制御できる要素は自律的に行いながら、必要に応じて操縦者からの指令を受けて作業する「遠隔操作ロボット」のイメージに近いと言えます。
ネットワーク技術は、当然こうした遠隔操縦で動くロボットシステムに必須の要素となります。今後は、ロボットとネットワーク技術をより密に結びつけたシステムを開発して、通信インフラを確保しながら、より危険な領域にロボットを踏み込ませて人名救助を行うといった研究も進んでいくでしょう。
先に述べた「インターネットは災害に強い」という“神話”を「本当の意味で役に立つ技術」へと進化させ、運用可能なシステムにしていく、これこそ、いま、インターネット技術者に求められる責務だと考えています。
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